【第4回】西田 輝夫 先生

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『感覚器と統合医療』


西田 輝夫 (ニシダ テルオ)
山口大学 名誉教授
         

今日,日本は世界で最も長寿(人生の量)を楽しめる国です。昭和22年の統計では,平均寿命は50歳でした。しかし60年以上を経た今日では,男性も女性も80歳以上がこの国での平均寿命となりました。このような長寿国となった背景には,行政による健康保険制度などの充実,社会の衛生環境の改善と,生命を維持するための医学の進歩が大きく貢献しました。人生の量が満たされれば,より充実した人生の質を楽しむ社会が求められてきます。より豊かな人生とは,個人としての健康に加え,社会と十分な関わりを持ち生活していくことではないかと考えます。

私たちを取り巻く環境は,自然環境,社会環境に限らず全てが常に変動しています。このような環境の中で,ある一定の恒常性を維持して豊かな人生を楽しむためには,これらの変動を的確に感知する必要があります。私たち人間は,五感(+第六感)を用いて,様々な自分を取り巻く環境の変化を感じ取り,適切な行動を選択しています。その中でも,見ると言うこと(視覚)により外部情報の80%を手に入れており,見えるということが当たり前のように感じますが,極めて重要です。

円錐角膜という角膜(黒目)の形が円錐状に突出し,物が二重三重に歪んで見え、視力が低下する病気があります。15歳から25歳のいわゆる思春期に発症し進行します。変形している角膜を切り出し,アイバンクから提供された善意の角膜を移植することが,基本的な治療法です。ある日の外来で,角膜移植により視力を取り戻した患者さんが,「先生,私結婚することになりました。」ととても明るい顔で告げてくれました。視力が悪いために今まで自分に自信が持てず,プロポーズを受けていたにもかかわらず結婚に踏み切ることが出来なかったそうです。角膜を提供して下さった方のお陰で視力を取り戻し,ご自分の人生への自信を再び取り戻し,プロポーズを受けられたとのことでした。

目の病気を治して差し上げることは,同時にその方の人生に再び明るさと社会との関わりを取り戻す機会が生まれることでもあります。ここに感覚器医療の大切さがあると考えます。長い間,眼科医療に携わり,単に目の病から開放すると言うことだけではなく,一人の人間として全人的な関わりを患者さんと持つことの重要性を学んできました。病気に対峙したとき,今日の最新・最善の医療技術を用いることは当然大切な基本です。統合医療という考え方は,病んだ臓器や組織を修復させるのみならず,病気により引き起こされた様々な症状を緩和し,人生の流れをどれだけ豊かに出来るかということを求める医療であります。病(やまい)の治癒のその先に楽しめる豊かな人生が生まれるような医療を私たちはさらに求めていくことが大切だと考えます。

【略歴】
1971年 大阪大学医学部卒業
1971年 大阪大学蛋白質研究所代謝部門
1974年 愛媛大学医学部第1生化学教室 助手
1977年 スキペンス眼研究所(ボストン) 研究員
1981年 大阪大学医学部眼科学教室 助手
1984年 近畿大学医学部眼科学教室 講師
1993年 山口大学医学部眼科学教室 教授
2010年 山口大学 理事・副学長
2012年 山口大学名誉教授
2014年 医療法人社団水生会柴田病院 顧問
第19回日本統合医療学会 プログラム委員会 副委員長
タグ:医師
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【第3回】久保 千春 先生

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『統合医療における心身医療の役割』


久保 千春 (クボ チハル)
九州大学 総長

         
 現代医療は診断や治療において大きく進歩してきています。 
1)高度先進治療:移植医療、遺伝子治療、再生医療、ロボット手術、重粒子線治療など
2)新薬の開発:分子標的治療薬、抗がん薬、高血圧治療薬、高脂血症治療薬など 
3)診断機器の開発:CT、f-MRI、PET、SPECTなど
 しかし、医療が進歩しているにも関わらず、肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧などの生活習慣病や心身症、不安症、うつ病などのストレス関連疾患は増加しています。また、現在の日本は少子高齢化、核家族化、過疎化などにより課題も多く見られます。

1)少子高齢化による老年病の増加
2)ストレス増加によるストレス関連疾患の増加
3)長寿社会であるがQOLは低い
4)介護の問題
5)医療費の高騰
6)西洋医学のみの限界

 このようなことから、全人的医療、地域での支え合い、補完代替医療を含めた統合医療、予防医療、などが期待されてきています。
 ところで、心身医療は1)身体・心理・社会・実存の側面からみる全人的医療、2)心身相関を基本:精神・神経・内分泌・免疫系の生体反応の観点、3)患者中心の医療、4)チーム医療、などです。心身医学は西洋医学を出発点として、第1期:神経症についての心身相関研究、第2期:身体疾患(いわゆる心身症)についての心身相関研究、第3期:生物心理社会的モデルに立脚した全人的医療への発展、となってきています。

 さて、統合医療は近代西洋医学を中心として、伝統医学や代替医療(鍼、マッサージ、食事療法、ハーブ、音楽療法など)を統合して、全人的医療を患者中心に行うものです。その基本は1)患者中心、2)全人的医療、3)治療のみならず、健康予防までの医療です。このような点は心身医療と共通の部分があります。
 今後の新たな医療システムにおいて心身医学・心身医療は統合医療の土台として機能していく必要があると思われます。

【略歴】
1973年 九州大学医学部卒業 
              同病院心療内科入局
1982年 オクラホマ医学研究所(アメリカ)へ留学
1984年 国立療養書南福岡病院内科医長
1993年 九州大学医学部診療内科教授
2000年 九州大学大学院医学研究院心身医学教授
2008年 九州大学病院長
2014年 10月 九州大学 総長
第19回日本統合医療学会 プログラム委員長
タグ:医師
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【第2回】理事長 仁田 新一 先生

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『私と統合医療との出会い』


仁田 新一 (ニッタ シンイチ)
一般社団法人日本統合医療学会理事長
東北大学名誉教授


 私の知人からよく「近代医学の最先端で活躍していた先生がどうして統合医療に手を染める様になったのか?そういえば現役の大学教授を辞めると途端に怪しげな領域に飛び込む人がよくいますね」と好奇心の塊のような質問を受けることがあります。統合医療との出会いは決して近代西洋医学を否定したのではなく、純粋に科学技術を駆使して東洋医学領域の脈診や鍼灸、気功などの効能とそのメカニズムの解明が可能なのではないかという一科学者の好奇心からスタートしたものです。そのきっかけを作ってくださったのがソニーの創始者の井深大さんでした。それは1980年後半でしたが東大教授の渥美和彦先生と一緒にソニーの脈診研究所に呼ばれ「私は工学研究者なのですが近代西洋医学には限界があるが、脈診などの東洋医学は科学的検証がなされにくいので、ぜひ先生たちの力で科学的根拠付けをしてほしい」との要請を受けました。渥美先生も私も人工心臓の開発と臨床応用を研究テーマとしていましたので、健康な脈とか病的な脈の機械的な再現はお手の物でした。早速脈診に用いる三個の動圧センサーを開発し、健康なものと種々の動脈硬化を再現した人工血管を作り人工心臓をポンプとし、流体は任意の粘性の人工血液を使い人工循環システムを作成して実験を行ないました。脈は心臓、血液、血管、センサーに当たる皮膚などの条件が変わるとそれに応じて特異的な脈が生まれます。このシステムを使うと色々な病態の脈診を再現できることになったのです。今も指先にセンサーを置いて災害地や過疎地域、飛行機や船舶などの移動体での双方向通信を用いた遠隔救急医療の役に立てようとしています。
 今から約40年前に始まった私の統合医療研究が統合医療学会の皆様と一緒に被災地や時代の要請を受けて、国民に新しい未来型医療として受け入れられる素地がようやく固まろうとしています。これからの医療は単に医師看護師などの特別な領域ではなく、国民一人ひとりが自分の健康を守る時代になります。その時のパートナーとしての各種療法の宝の山である統合医療が大きな役割を果たすようになります。

【略歴】
昭和 41年 東北大学医学部医学科卒業
昭和 49年 米国ベイラー医科大学研究員
昭和 56年 東北大学抗酸菌病研究所助教授(東京工業大学併任)
平成  8 年 東北大学加齢学研究所教授(東京工業大学併任)
平成 10年 東北大学副総長
平成 15年 東北大学加齢医学研究所臨床医工学研究部門教授
平成 22年 東北大学名誉教授(現)
 第19回日本統合医療学会 名誉大会長
タグ:医師
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