【第32回】猪股 千代子 先生

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『寄り添い・絆を深め・しなやかな心を取り戻す、
生 (スピリチュアル) を支える統合医療ケアの普及活動』

猪股 千代子 (イノマタ チヨコ)  
札幌市立大学看護学部教授 
日本統合医療学会理事・統合医療認定師(看護師)

今日の医療・看護は、医療機器に囲まれた業務処理に追われがちであり、患者に寄り添い、その人の生きる力を高めるようなケアがどれほど行われているだろうか。

 看護師は病む人をケアすることを通して、それぞれの人生の旅路の中で出会って、人の心に触れる機会を頂き、多様な人生を学ばさせていただいている。"生きること""ケアすること"を通して得られた無数の経験知を看護師は、患者さんや社会にフィードバックしているだろうか。思いやりの関係性が薄くなっていないだろうか。

 私は2004年に、仙台で統合医療の考え方に出会い、2008年から札幌で「ハマナス・音楽&看護療法研究会」を立ち上げ、実践・研究・教育の場づくりを行っている。本会は、医療従事者と音楽療法士やアロマセラピスト、ヨーガセラピストなどの療法士の方と共に、自然治癒力を高める新しいケア方法を創造することに挑戦している。参加患者は、現在のところ神経難病患者の方が大半を占めている。

 現行のヘルスケアシステムにどのようにすれば安全で、患者のニーズに即し、質が保障された自然治癒力を高めるケアを提供できるのかの視点で、プログラム創り、実践、効果の評価を行っている。時に、看護学生などの教育の場となり、健康づくりのための市民との交流の場となり、保健医療福祉職の人々に統合医療を学んで頂く場となっている。

 この場から、真のチーム医療のありかたをセラピストや患者との関係性から学んでいる。ケアリングとは何か、癒しとは何か、健康とはどのような状態を表すのか、スピリチュアリティを育むケアとはどのようなものかなど、患者さんも交えて意見交換を行っている。参加者に対するインタビュー研究から、この場は、「寄り添い・絆を深め・しなやかな心を取り戻す生 (スピリチュアル) を支えるケアが繰り広げられ、生命が響きあい、生きていく力を強めている」ことが導き出された。患者は、意識の拡張や霊的成長をもたらし、生きられる工夫や養生法を見出し、愛他精神が育まれていた。

 会を立ち上げた頃、看護職はCAMの知識や技術不足の中でチームの役割が見いだせない状況であった。しかし、ナイチンゲール精神に立ち返り癒しのケア実践をとおし、あらためて、「ヒューマンケアリングがヒーリングをもたらすという看護の崇高な価値」を確信できた。セラピストにとっても、患者さんの多様なニーズに応える癒しの技術を洗練・創造する機会となり、実践能力の向上をもたらした。

 人間は、自分のためだけに生きていこうとすると、時に心が折れそうになるが、自分を気遣ってくれる人のために、他者のために生きようという意識が働くと、思いもかけない力が湧き出し、生きられる術を見出すようである。

 このような自分が見る夢は、病む人の自然治癒力を惹起させる時空間デザインに、異業種の皆様のお力をお借りしながら、挑戦してみたい・・・・・。

【略歴】
1976年 東北大学医療技術短期大学部卒業 東北大学病院看護部入職
1998年 玉川大学文学部教育学科卒業 学士(文学)
2002年 東北大学大学院経済学研究科修了 修士(経営学)
2004年 東北大学病院看護部退職 宮城大学看護学部 助教授
2007年 札幌医科大学保健医療学部 教授
2012年〜現職

タグ:看護師
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【第30回】上馬塲 和夫 先生

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『統合医療とは、医療の当たり前の姿』


上馬塲 和夫( ウエババ カズオ) 
帝京平成大学ヒューマンケア学部教授
一般財団法人日本東方医学会理事長         

 統合医療と言うと、何か現代医学とは異なる補完代替医療の一部門をイメージする人も多い。しかし、統合医療とは、種々の有効な治療を組み合わせて全人間的に、チーム医療で取り組むことで、疾病の治療と予防、リハビリテーションと介護を行い、最終的に、人間の健康で幸福な長寿や幸福な死を目指すものであると私は考えている。これは正に医療本来の姿ではなかろうか。器官・臓器別に発達した現代医学が、人間を全体的に診る視点が欠けるのはやむをえないとして、医学の発展のためには統合医療の全人間的な視点が必要となることは、医療者なら認識できることであろう。つまり、補完代替医療と現代医学を統合した統合医療とは、現代医学の先をいく医療の進歩した姿だと思う。

 では、人間全体とは、生命とは何であろうか? 私は、そのような全体的な生命観や身体観を、古代の叡智に尋ね、最も古い伝統医学を紐解いてきた。その結果、古代インドから伝えられたアーユルヴェーダやヨーガに、全人的な生命観や身体観が語られていることを発見した。つまりアーユルヴェーダは、その名前の如く「生命の科学」として、生とは健康とは何かを定義するだけでなく、死をも定義して、健康で幸福な長寿と幸福な死に方を説いたものである。また治療において、医療者だけでなく、看護人、患者自身、薬草など治療法、の4つが必須となるとするチーム医療の重要性も説いている。

 アーユルヴェーダやヨーガでは、ボディ・マインド・スピリットからなる生命を仮定し、身体の内側からのアプローチ(内治)、皮膚からアプローチする外治、内治でも外治でも不内外治として運動やヨーガなどを統合して、心身の浄化(ショーダナ)と緩和療法(シャマナ)を、患者自身も含めたチーム医療で行うことを指示しているのである。

 このように、古代から人類が培ってきた叡智による全人間的な生命観と身体観、治療観に基づいて、患者自身も含めたチームで、病を癒し、防ぎ、健康で幸福な長寿を実現することを目指す本来の医療の姿こそが、現代よりも進歩した医療の本来の姿である統合医療となっていくことで、人類が進化することになるのではないかと私は考えている。

【略歴】
昭和53年広島大学医学部医学科卒業後から東西医学融合をライフワークとし、
虎の門病院内科レジデント、北里研究所付属東洋医学総合研究所、富山県国際伝統医学センター、
富山大学和漢医薬学総合研究所を経て現職。



タグ:その他
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【第29回】酒谷 薫 先生

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『統合医療は2025年問題の切り札になるのか?』


酒谷 薫(サカタニ カオル)
日本大学 教授 
工学部次世代工学技術研究センター長、医学部脳神経外科(兼担)

これから10年後に起きるといわれている2025年問題。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、2200万人、4人に1人が75歳以上という超高齢社会が到来するのです。これまで日本経済を支えてきた団塊の世代が給付を受ける側に回るため、医療、介護、福祉サービスへの需要が高まり、社会保障財政が破綻するかもしれないのです。2025年問題を解決するひとつの方法は、病気を治療する医療から病気にならないように予防する医療といわれています。PETなどの先端的医療機器を用いて早期発見早期治療を行うのも予防ですが、これでは医療費を抑制することはできません。やはり健康を維持増進し、病気にならないようにするのが医療費を抑制する一番だと思います。私は統合医療にはその方法がたくさんあるように思います。例えば中国伝統医学には病気の前段階の「未病」という概念があり、養生法を呼ばれるさまざまな未病の治療方法が提案されています。またアロマセラピーや音楽療法などの非薬物療法もリラクゼーション効果によりストレスに起因する生活習慣病などの体の病気、そしてうつ病などの心の病気を予防する効果があるように思います。しかし、これらの補完代替医療を医療現場に導入するうえで、その効果や安全性に関する科学的検証・評価を行うことは不可欠だと思います。西洋医学的な薬物療法では、基礎研究に始まり、臨床的効果や安全性に関する一連の臨床研究が行われ、それらをクリアして初めて臨床の場で使用できるようになります。統合医療における補完代替医療も同様に科学的研究は不可欠だと思います。なぜならば、「効くかどうかも分からないセラピー」を患者に提供することはできないし、また「なぜ効くのか分からないセラピー」が幅広く普及するとは思えないからです。補完代替医療における科学的エビデンスの確立は、統合医療に求められている大きな課題のひとつだと思います。


【略歴】
日本大学教授、工学部・次世代工学技術研究センター長、
医学部・脳神経外科兼任教授。(一社)日本中医学会理事長。
昭和56年 大阪医科大学卒業、医学博士(大阪医大)、工学博士(北海道大学)。
医療工学の他、中国伝統医学の研究を行っている。

タグ:医師
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