【第45回】坂井 友実 先生

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2015年6月10日

『鍼灸医学分野からみた統合医療
―ペインクリニックでの神経ブロックと
                鍼の特徴ー』


坂井 友実(サカイ トモミ)
東京有明医療大学 教授
付属鍼灸センター長、大学院保健医療学研究科長

 私は、1979年から東大医学部附属病院ペインクリニック外来で5年間、そして、1984年から7年間東大物療内科(現、アレルギー・リウマチ内科)で鍼治療に携わってきました。補完代替医療とか、統合医療という言葉が出てくる以前から、西洋医学の中で 鍼治療を行ってきました。そこでの鍼治療は臨床研究という形で試行的に行われていました。今回は、西洋医学の中の鍼灸として特に印象に残った疾患について紹介します。印象に残る疾患や症例は数多くありますが、鍼の特徴や役割を理解してもらう上でペインクリニックで取り扱ったヘルペス後神経痛が相応しいと考えましたので、この疾患を取り上げ紹介します。

 水庖形成と疼痛を主徴とするヘルペスは比較的よくみられる疾患です。水痘と同一のvaricella zoster virusにより発症する疾患です。このウイルスは神経親和性が強く、知覚神経を主として侵し、その神経の皮節に沿って発疹などの皮膚症状がでるため帯状疱疹とも呼ばれます。このヘルペスの発疹が治癒した後も、痛みが残ってしまう場合があり、これをヘルペス後神経痛と呼んでいます。鍼治療に依頼されるヘルペス後神経痛の患者の多くは、神経ブロックを行い効果がみられないか、もしくは、一定の効果はみられるもののそれ以上の効果がみられない症例でした。これらの症例に鍼治療を行うと直後効果はあるものの一日前後しか持続せず累積効果はほとんどみられませんでした。しかし、患者の多くは鍼治療に満足し定期的に通ってきてくれていました。

 ヘルペス後神経痛はヘルペスウイルスによって起こった神経線維や神経細胞の炎症、出血などの後遺症と考えられていますが、痛みは非常に激烈で焼けるような、あるいは鋭い刺すような痛みであり、下着がふれたり、髪の毛が風で動くだけで激痛が起こります。このような陳旧性のヘルペス後神経痛の患者に対し、局麻剤によるブロックと鍼治療単独とを同一患者に行ってみると、局麻剤によるブロックは全部がしびれてしまい、痛みもすっかり取れます。しかし、薬効が消退するに従って、かえって痛みを鋭く感じてしまいます。それに比べて、鍼は痛みを完全に取り除くことはできません。しかし、痛みの性質が丸みを帯び、そのあとで反動的に強く感じられることはありません。神経ブロックや薬物の長期連用は生体にとって決して好ましいものではありません。そういう意味からも鍼治療はたとえ、ヘルペス後神経痛に対し累積効果がなくても生体に与える侵襲は少なく有用性のある治療といえます。神経ブロックや鍼治療の特徴をよく理解した上で患者にとって何が最適なのかを判断していくことが重要であり、治療方針の決定にあたっては患者に正しい情報を伝え、選択してもらうことが統合医療のあるべき姿ではないかと考えます。

【略歴】
1978年 東京教育大学(現、筑波大学)理療科教員養成施設卒業
1984年 東京大学物療内科 文部技官
1991年 筑波技術短期大学鍼灸学科 助教授
2004年 博士(鍼灸学)(明治鍼灸大学)
2005年 筑波技術大学保健学科鍼灸学専攻 教授
2009年 東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 教授

タグ:鍼灸師
posted by IMJ2015事務局 at 16:28 | C専門分野からみた統合医療