【第46回】和辻 直 先生

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『統合医療と鍼灸医療』


和辻 直(ワツジ タダシ)
明治国際医療大学 基礎鍼灸学講座・教授 

 統合医療には期待が大きい。今後の医療の大きな役割を担ってくれると感じているからである。日本は超高齢社会に突入し、疾病構造の変化、治療医療から予防医療への転換などが始まっており、従来型医療の変革が求められている。

 統合医療は全人的医療で患者中心の医療は言うまでないが、実際にそれを実践できているのか?というと現場では色々な難題に直面する。一つはチーム医療であり、その現場は多様であって、統合医療が目標としているチーム医療を実現できているのは、まだ数えるほどではないかと思う。しかし、患者は統合医療を実践してほしいと願っており、そのニーズに応える医療機関が僅かであるが増えてきている。

 今から30年以上前に京都に鍼灸大学が誕生し、「東洋医学と西洋医学を調和する真の医学を求めて」という願いで開学された。私も当時、別の医療職種を志していたが、その建学の精神に惹かれ、京都丹波の地に入った。その選択は誤りではなく、予想に以上に多くのこと学び、体験することができた。その理由は附属病院での貴重な実践体験である。統合医療的なスローガンはあったものの、実際は苦難が多くて試行錯誤の日々である。先に述べたとおり、統合医療の実践は附属病院や統合医療センターなどで一部分はできているが十分ではない。最近になって本学でもようやく、在宅医療において訪問診療・訪問看護・訪問薬剤・訪問リハビリに、在宅鍼灸といったチーム医療の実践ができる一歩を踏み出した。

 鍼灸に限って言えば、補完医療や代替医療の代表選手であるが、日本の医療の枠組みには入っていない。今後も医療制度の問題で保険医療への組み入れは難しく、混合診療における対応が望まれる。日本の鍼灸医学の良さは、時代に応じて変容してきたもので、決して伝統医学(東洋医学)のみに偏ってはおらず、鍼灸師の国家試験も現代西洋医学と東洋医学が出題されるために、それら両方を学習しなければいけない。また鍼灸の良さは低コストの医療で、エコ医療でもある。医療費が高騰する現在、医療コストがかからない医療が今後求められる。さらに鍼灸診療における科学的根拠は重要な課題であり、山口大会のテーマ『Art&Science with Humanity』に深く関係している。本大会で、これらの課題が多く議論され、新たな展開として導かれることを期待している。


【略歴】
1987年     明治鍼灸大学 鍼灸学学部 卒業
1987〜1989年 明治鍼灸大学附属 研修鍼灸師
1989〜1991年 明治鍼灸教員養成施設 卒業
1991〜1994年 明治鍼灸大学 東洋医学教室 助手
1994〜2004年 明治鍼灸大学 鍼灸診断学教室 講師
2004年     博士(鍼灸学)(明治鍼灸大学)
2004〜2015年 明治鍼灸大学・大学院 東洋医学基礎教室 助教授
2015年〜現在    明治国際医療大学 基礎鍼灸学講座 教授
        同大学大学院 基礎鍼灸学T(伝統鍼灸学)教授
日本統合医療学会 代表代議員、全日本鍼灸学会・諮問委員 認定鍼灸師、
日本中医学会 評議員など


タグ:鍼灸師
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【第45回】坂井 友実 先生

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2015年6月10日

『鍼灸医学分野からみた統合医療
―ペインクリニックでの神経ブロックと
                鍼の特徴ー』


坂井 友実(サカイ トモミ)
東京有明医療大学 教授
付属鍼灸センター長、大学院保健医療学研究科長

 私は、1979年から東大医学部附属病院ペインクリニック外来で5年間、そして、1984年から7年間東大物療内科(現、アレルギー・リウマチ内科)で鍼治療に携わってきました。補完代替医療とか、統合医療という言葉が出てくる以前から、西洋医学の中で 鍼治療を行ってきました。そこでの鍼治療は臨床研究という形で試行的に行われていました。今回は、西洋医学の中の鍼灸として特に印象に残った疾患について紹介します。印象に残る疾患や症例は数多くありますが、鍼の特徴や役割を理解してもらう上でペインクリニックで取り扱ったヘルペス後神経痛が相応しいと考えましたので、この疾患を取り上げ紹介します。

 水庖形成と疼痛を主徴とするヘルペスは比較的よくみられる疾患です。水痘と同一のvaricella zoster virusにより発症する疾患です。このウイルスは神経親和性が強く、知覚神経を主として侵し、その神経の皮節に沿って発疹などの皮膚症状がでるため帯状疱疹とも呼ばれます。このヘルペスの発疹が治癒した後も、痛みが残ってしまう場合があり、これをヘルペス後神経痛と呼んでいます。鍼治療に依頼されるヘルペス後神経痛の患者の多くは、神経ブロックを行い効果がみられないか、もしくは、一定の効果はみられるもののそれ以上の効果がみられない症例でした。これらの症例に鍼治療を行うと直後効果はあるものの一日前後しか持続せず累積効果はほとんどみられませんでした。しかし、患者の多くは鍼治療に満足し定期的に通ってきてくれていました。

 ヘルペス後神経痛はヘルペスウイルスによって起こった神経線維や神経細胞の炎症、出血などの後遺症と考えられていますが、痛みは非常に激烈で焼けるような、あるいは鋭い刺すような痛みであり、下着がふれたり、髪の毛が風で動くだけで激痛が起こります。このような陳旧性のヘルペス後神経痛の患者に対し、局麻剤によるブロックと鍼治療単独とを同一患者に行ってみると、局麻剤によるブロックは全部がしびれてしまい、痛みもすっかり取れます。しかし、薬効が消退するに従って、かえって痛みを鋭く感じてしまいます。それに比べて、鍼は痛みを完全に取り除くことはできません。しかし、痛みの性質が丸みを帯び、そのあとで反動的に強く感じられることはありません。神経ブロックや薬物の長期連用は生体にとって決して好ましいものではありません。そういう意味からも鍼治療はたとえ、ヘルペス後神経痛に対し累積効果がなくても生体に与える侵襲は少なく有用性のある治療といえます。神経ブロックや鍼治療の特徴をよく理解した上で患者にとって何が最適なのかを判断していくことが重要であり、治療方針の決定にあたっては患者に正しい情報を伝え、選択してもらうことが統合医療のあるべき姿ではないかと考えます。

【略歴】
1978年 東京教育大学(現、筑波大学)理療科教員養成施設卒業
1984年 東京大学物療内科 文部技官
1991年 筑波技術短期大学鍼灸学科 助教授
2004年 博士(鍼灸学)(明治鍼灸大学)
2005年 筑波技術大学保健学科鍼灸学専攻 教授
2009年 東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 教授

タグ:鍼灸師
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【第34回】今西 二郎 先生

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『健康創生と統合医療』


今西 二郎 (イマニシ ジロウ)
日本統合医療学会代表代議員
日本ハーブ療法研究会世話人代表など

 高齢化社会が、今後20年の間にますます進み、糖尿病、肥満、高脂血症、動脈硬化などの生活習慣病、睡眠障害、心身症、認知症などの患者が増加していくことが予測されている。この高齢化問題の対応策の一つに健康長寿が考えられる。そのためには、中高年層における疾病の治療だけでなく、予防、治未病、健康維持・増進を図っていくことが重要である。

 最近、健康創生という言葉が聞かれるようになってきた。私たちは、健康創生を疾病の予防や健康維持・増進だけでなく、もっと積極的に生き生きとした、生きがいのある生活を営むことであると捉えている。そして、健康創生を成し遂げるには、セルフケアによる能動的なライフスタイルの改善が第一であると考えている。

 そこで私たちは、疾病の予防、健康維持・増進を目的とした健康創生プログラムを構築し、実施することにした。このプログラムでは、特に病気にかかっているわけではないが、健康が気になる方、将来病気にならないか不安をかかえている方、現在の健康を維持したい、あるいはもっと元気でいたいと願っている方などを対象に、生活習慣の改善、睡眠の改善、ストレス軽減、認知症の予防などについて指導を行って、より健康な生活、気になるさまざまな病気の予防、老いてもなお生き生きとした生活ができるように適切な指導、アドバイスを行っている。

 そのために、本プログラム参加者に自覚症状、既往歴、家族歴、身体測定、血液・尿検査、心電図、ストレスチェックなどの各種検査情報や服用薬物、摂取サプリメント、毎日の食生活、運動状況、健康状態(自覚症状、睡眠状況を含む)、体重測定、血圧測定結果などのデータを入力してもらっている。それらのデータに基づき、医師、保健師、看護師、管理栄養士、健康運動指導士らが日常の健康管理指導、生活習慣の改善(運動、食事など)睡眠、ストレスコーピング法、適切なサプリメントの摂取についての指導・アドバイスなどを行っている。

 このような健康創生プログラムは、まさに統合医療の一つであり、このプログラムを発展させることにより、新しいセルフケア型の統合医療が実現できるものと期待している。

【略歴】
昭和46年 京都府立医科大学卒業、パリ第7大学留学を経て京都府立医科大学教授、
平成22年より、明治国際医療大学附属統合医療センター長、教授

タグ:その他
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