【第36回】山下 仁 先生

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『研究者の公正な研究態度と情報公開を
 応援する学会として』

山下 仁 (ヤマシタヒトシ)
森ノ宮医療大学 教授
鍼灸情報センター長、大学院保健医療学研究科長


 近年、研究不正や利益相反の問題が特に大きく取り上げられています。自分が支持していた治療法を厳密な手法で検証してみると有効性や安全性に関して否定的なデータが得られることがありますが、そんな時は本当に落胆します。研究の主体が健康関連商品を扱っている企業ならば利益に直結する深刻な問題でしょう。しかしそのようなデータを「お蔵入り」にして発表しなければ、医療消費者(患者や購入者)を裏切り無駄な出費をさせるだけでなく、起こり得る有害事象を伝えないことにより危険に曝すこともなります。また、このような出版バイアス(publication bias)が頻繁に存在すると、後に続く研究者が「未だこのような研究は行われていない」と考えて何度も同様の研究を繰り返してしまい、研究資金と時間の無駄にもつながります。

 否定的な研究データを公表し、その理由を深く考察し議論することは重要です。その治療に有効性がなかったのか、別の因子が交絡していたのか、効果を検出できないような研究デザインだったのか等々、肯定的な研究データ以上に意味があるかもしれないのです。最近起こった複数の研究不正事件を踏まえて、関連省庁の指針も細かく厳しくなっています。統合医療を達成するためには、その構成要素となる各種治療法の有効性と安全性を公正に評価し情報公開するという当たり前の姿勢が必要です。そのためには学会としても、研究不正防止は勿論のこと、施設内審査委員会の承認、臨床試験の事前登録、利益相反の開示などについて、当該領域の研究者に対してセミナーや投稿規程で周知・啓発する取組みが必要です。

 森ノ宮医療大学鍼灸情報センター(MUMSAIC)のWebサイトにおいては、鍼灸関係者にとって都合の良い情報だけでなく有効性や安全性に関して否定的な情報についても、それが信頼できる研究であると判断すれば掲載しています(http://mumsaic.jp/index.html)。そのことが議論を深め、適応病態の判断や鍼灸師の教育に貢献し、結果的には医療消費者や医療従事者の信頼を獲得することにつながると信じているからです。この姿勢を貫くことはしばしば玉石混交と言われる統合医療だからこそ重要であり、その学術団体である「学会」は公正な研究態度と情報公開を貫く研究者を応援し、育てる役割を持っていると考えています。

【略歴】
1987年    明治鍼灸大学鍼灸学部鍼灸学科卒、鍼灸師
1987〜1992年 愛媛県立中央病院東洋医学研究所 技師
1992〜2006年 筑波技術短期大学(2005年〜筑波技術大学)助手
1999〜2002年 英国Exeter大学補完医学研究室 客員研究員
2002年    博士(保健学)(東京大学)
2007年〜現在 森ノ宮医療大学 教授
タグ:鍼灸師
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【第29回】酒谷 薫 先生

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『統合医療は2025年問題の切り札になるのか?』


酒谷 薫(サカタニ カオル)
日本大学 教授 
工学部次世代工学技術研究センター長、医学部脳神経外科(兼担)

これから10年後に起きるといわれている2025年問題。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、2200万人、4人に1人が75歳以上という超高齢社会が到来するのです。これまで日本経済を支えてきた団塊の世代が給付を受ける側に回るため、医療、介護、福祉サービスへの需要が高まり、社会保障財政が破綻するかもしれないのです。2025年問題を解決するひとつの方法は、病気を治療する医療から病気にならないように予防する医療といわれています。PETなどの先端的医療機器を用いて早期発見早期治療を行うのも予防ですが、これでは医療費を抑制することはできません。やはり健康を維持増進し、病気にならないようにするのが医療費を抑制する一番だと思います。私は統合医療にはその方法がたくさんあるように思います。例えば中国伝統医学には病気の前段階の「未病」という概念があり、養生法を呼ばれるさまざまな未病の治療方法が提案されています。またアロマセラピーや音楽療法などの非薬物療法もリラクゼーション効果によりストレスに起因する生活習慣病などの体の病気、そしてうつ病などの心の病気を予防する効果があるように思います。しかし、これらの補完代替医療を医療現場に導入するうえで、その効果や安全性に関する科学的検証・評価を行うことは不可欠だと思います。西洋医学的な薬物療法では、基礎研究に始まり、臨床的効果や安全性に関する一連の臨床研究が行われ、それらをクリアして初めて臨床の場で使用できるようになります。統合医療における補完代替医療も同様に科学的研究は不可欠だと思います。なぜならば、「効くかどうかも分からないセラピー」を患者に提供することはできないし、また「なぜ効くのか分からないセラピー」が幅広く普及するとは思えないからです。補完代替医療における科学的エビデンスの確立は、統合医療に求められている大きな課題のひとつだと思います。


【略歴】
日本大学教授、工学部・次世代工学技術研究センター長、
医学部・脳神経外科兼任教授。(一社)日本中医学会理事長。
昭和56年 大阪医科大学卒業、医学博士(大阪医大)、工学博士(北海道大学)。
医療工学の他、中国伝統医学の研究を行っている。

タグ:医師
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【第26回】坂本 歩 先生

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『統合医療に期待していること』


坂本 歩(サカモト アユム)
学校法人呉竹学園 理事長
公益社団法人東洋療法学校協会 会長

 私は、医師であった父の影響もあり、子供の頃から自分も将来は医師になるものと漠然と考えながら育ちました。ただ、父は、大学で教鞭を執りながら祖父が設立した伝統医療(鍼灸、柔道整復)の学校にも関わっていたこともあり、常に西洋医学一辺倒の考え方をしていなかったので、それが私の医療に対する思考をやや複雑にしたのではないかと考えています。また、私が医学部を卒業する頃、その後教えを請うこととなる恩師である教授と出会い、自分の考え方をお伝えしたところ、「私は弟子をとるつもりはない。同志が欲しい。君はまさにその同志である」と言われ、まんまとその先生の門下生となったことが、さらに私のその後に影響したのだと思っています。

 医師として循環器内科の研修と心臓病の予防に関する研究活動を12年ほどやっておりましたが、慢性疾患を有する患者さんに自分がいったい何をできているのかと疑問を持つようになりました。即ち、医師がトップのヒエラルキーで構成される医療体制では、本当の意味で患者さんの役には立たないのではないかという考え方に傾倒していったわけです。

 我が国をはじめ先進諸国では、慢性疾患や慢性疼痛に悩まされる方々が、今後も増え続けていくことでしょう。そのような方々に対する適切な医療とはいったいどんなものなのでしょうか。少なくとも慢性と言われる状態は、完治していないことを意味指すものであり、現在の医療の限界を示しているのかもしれません。もし、そうであれば、必ずしもガイドライン通りでなくとも患者さんの満足度が高い或いは納得ができる医療を施すことが現状で最良の方法とも考えるのです。そして、統合医療は、その最良の方法を具現化する可能性を持っていると思量します。多岐にわたる専門性を有する先生方とこのような事柄を議論できる場は本学会をおいて他にはなく、今後の更なる発展を期待しております。

【略歴】
昭和63年東京医科大学卒業
平成4年東京都健康づくり推進センター医学指導主査
平成8年東京医科大学講師
平成11年学校法人呉竹学園理事長

平成21-26年公益社団法人全国柔道整復学校協会会長
平成26年〜公益社団法人東洋療法学校協会会長                          
タグ:医師
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